薬剤師が!しかも病院薬剤師が主役の正統派医療漫画!

 医師が患者から頼られる大黒柱であり、看護師が患者から親しまれる恵比寿柱であるとすれば、薬剤師とはいったいなんなのであろうか。縁の下の力持ち、いやそれにもなりきれない路傍の石ころである。そんな風に考えている薬剤師は世に大勢いるとされています。

 今まで医療系の小説、漫画といえばおおむね医師か看護師が主役であり、薬剤師が主役のものといえば4コマのエッセイだったり、薬師・薬屋として舞台設定を過去や異世界に飛ばしたりしたものしかありませんでした(たぶん)。それはそれで良いですし、機会があれば楽しく読ませていただいているのですが、世の薬剤師はある種のやきもきを抱えていたことと思います。

 そのやきもきというのはもちろん、薬剤師が主役となってばっさばっさと物事を切り拓きに切り拓いていくドラマが観たい、というものですね。医療系のドラマを観たり小説を読んだりしていると、医師や看護師は数多のドラマが生じうることは容易に想像できるのですが、薬剤師にはドラマなんか発生しないからしょうがないと、むりやり納得している人も多かったことでしょう。実際、私もそう思っている大勢のうちの一人でした。

 しかし、本作は現代における病院薬剤師を主役として、薬剤師の抱えるあれやこれやが真っ当に描かれていて、かつ正統派医療系ドラマのような雰囲気が流れており、読むやいなや上述したやきもきを抱えていた世の薬剤師は歓喜の渦に包まれることうけあいであると思います。

タイトルのアンサングシンデレラ。どういう意味かと思って調べてみたら

アンサング(unsung):うたわれない、ほめたたえられない

という意味だそうです。
unsung heroで縁の下の力持ち。
日の当たらないシンデレラ。縁の下のシンデレラ。
...良いですね。

「医師のように頼られず、看護師のように親しまれなくても、今日も彼女は患者の「当たり前」を守るため、院内を駆け回る!!称賛されなくてもあなたを支える医療ドラマ!!」

 この煽り文も薬剤師という存在を的確に表しているような気がします。称賛されなくてもいい。路傍の石ころでもいいじゃないかと、なんだか背中をそっと優しく押してくれるような、そんな感じがしてこの一文だけでたいへん心を打たれております。考えた人はスゴイ。

内容について、あまりたくさん書くとネタバレになるので少しだけ。
 
 まず主人公が前向きで良いです。医師から疎まれようが患者さんのために東奔西走する姿は読んでいて励まされ、見習わなければと思わされます。
 
そして、3話で出てきたなんだか仕事ができそうな看護師さんの

「いる意味あるんだかないんだかわかんない薬剤師が多い中でさ」
「何も考えず杓子定規な仕事するだけ。ちゃんと目の前の患者をみろっつうの」


 という台詞を読んで背中から鋭利な刃物で刺されたような衝撃を受けて冷や汗をかいたので、世の薬剤師もこの台詞を読んで冷や汗をかくといいと思います。この作品は薬剤師ヨイショだけじゃなくてこういうこともちゃんと描いてくれてとても好感が持てます。

 ネット界隈では薬剤師はやれ袋詰め師だとかやれAIに仕事奪われるとかなんだかんだと言われたい放題ですが、本作が薬剤師の仕事に対する認知度が上がり、unsungからsungへと変わるきっかけとなることを期待し、今後も読み続け応援したいと思います。

アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり 1 (ゼノンコミックス)